~機能性セラミクス(酸化物)の電子機能を光でコントロールする~

セラミクス(酸化物)と聞いて何を思い出すでしょうか。多くの人は、瀬戸物や陶器のことを考えると思います。セラミクスは、その堅牢で安定な化学的性質により古来から我々の日常生活の細部にまで入りこんでいますが、実はそれ以外にもうひとつ重要な性質を隠し持っています。それは、電気を通すという性質(金属性)と磁石としての性質(磁性)です。確かに普通の瀬戸物は電気を流さないし、また磁石につくこともありません。しかし、酸化物の中にはそのような面白い性質(伝導性や磁性)を持つものがたくさんあります。最も有名なものとしては高温超電導体(銅と希土類元素の酸化物)が挙げられるでしょう。このように酸化物は、電子伝導や磁性というエレクトロニクス機能性材料という見地から現在盛んに研究が行われており、化学と物理の境界に位置する材料物性研究の花形であるといえるでしょう。私の研究は、これにフェムト秒レーザーという新しいツールを用いることにより、酸化物の隠れた電子機能性を見出すことを目標としています。

スピンクロスオーバーコバルト酸化物の光制御

ぺロブスカイト型コバルト酸化物は、Co3+イオン中の電子、スピン状態が外部パラメータ(温度、圧力など)の変化によって容易に相転移を起こすことが特長です(スピンクロスオーバー転移)。我々は、この系にレーザー光を照射することにより、フェムト秒スケール(~10兆分の1秒の時間スケール)で試料の磁気的・電気的性質をコントロールしていくことを目指しています。とくに以下の試料群に注目し研究を行っています。

(i)Pr1/2Ca1/2CoO3の光誘起‐絶縁体金属転移 (平成19年度卒業論文、平成20年度修士論文, Phys, Rev. Lett. 103, 027402 (2009))

Pr1/2Ca1/2CoO3は、典型的なぺロブスカイト型構造をもつコバルト酸化物であり、Tc~90 KでCoイオンのスピン転移をともなった金属絶縁体相転移を発現することでよく知られています[4]。我々は、この試料の低温絶縁体相(30K)において、再生増幅されたフェムト秒レーザパルスを照射し、その光励起状態と緩和のダイナミクスを調べました。(励起光のエネルギーは1.58 eV、プローブ光のエネルギーは0.5-2.1 eVの範囲で反射率相対変化の時間プロファイルを測定した。)その結果、(i)レーザシステムの時間分解能以内(<120 fs)に金属状態が出現すること、および(ii)その光照射で生成した金属ドメインが、図1に示されるように試料の奥行き方向に向かって伝播していくこと、が明らかになっています。実験と計算の定量的比較から、その伝播速度は試料中の音速にほぼ一致しており(~4.4 km/s)、マッハの速度で光によって新たに生成した金属状態が増殖していくことがわかります。(本研究は、東京工業大学応用セラミクス研究所 伊藤満研究室との共同研究です。)

(ii)層状ぺロブスカイト構造をもつRBaCo2O6-δ(R=Sm, Gd, Tb)の光励起状態(平成20、21年度修士論文)

RBaCo2O6-δ(R=3価の希土類イオン)もまたスピンクロスオーバー転移を示すペロブスカイト型Co酸化物の一種です。図2はRBaCo2O6-δの結晶構造です。Co3+イオンがBaO面とRO面にはさまれた二次元的な構造をとっていることが特徴です。現在我々は、このRBaCo2O6-δ結晶にに対し、室温におけるフェムト秒レーザパルスを用いたポンププローブ反射分光の研究を行っています。その結果、光励起にともなう巨大な電子構造変化を観測しており、光励起によりこの系に隠されていた新しい電子状態を超高速で捉えることに成功しています。(本研究は、東北大多元研究所有馬孝尚研究室との共同研究です。)